一握の砂

人といふ人のこころに
一人づつ囚人がゐて
うめくかなしさ

叱られて
わっと泣き出す子供心
その心にもなりてみたきかな

盗むてふことさへ悪しと思ひえぬ
心はかなし ...

一握の砂

人ありて電車のなかに唾を吐く
それにも
心いたまむとしき

夜明けまであそびてくらす場所が欲し
家をおもへば
こころ冷たし

人が皆家を持つてふかなしみよ
墓に入るごとく ...

一握の砂

人間のつかはぬ言葉
ひょつとして
われのみ知れるごとく思ふ日

あたらしき心もとめて
名も知らぬ
街など今日もさまよひて来ぬ

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て ...

一握の砂

ぢっとして
黒はた赤のインク吸ひ
堅くかわける海綿を見る

誰が見ても
われをなつかしくなるごとき
長き手紙を書きたき夕

うすみどり
飲めば身体が水のごとき透きとほるてふ ...

一握の砂

たんたらたらたんたらたらと
雨滴が
痛むあたまにひびくかなしさ

ある日のこと
室の障子をはりかへぬ
その日はそれにて心なごみき

かうしては居られずと思ひ
立ちにしが ...

一握の砂

一隊の兵を見送りて
かなしかり
何ぞ彼等のうれひ無げなる

邦人の顔たへがたく卑しげに
目にうつる日なり
家にこもらむ

この次の休みに一日寝てみむと
思ひすごしぬ ...

一握の砂

何がなしに
頭のなかに崖ありて
日毎に土のくするるごとし

遠方に電話の鈴の鳴るごとく
今日も耳鳴る
かなしき日かな

垢じみし袷の襟よ
かなしくも
ふるさとの胡桃焼 ...

一握の砂

大いなる水晶の玉を
ひとつ欲し
それにむかひて物を思はむ

うぬ惚るる友に
相槌うちてゐぬ
施与をするごとき心に

ある朝のかなしき夢のさめぎはに
鼻に入り来し
味噌 ...

一握の砂

何もかも行末の事みゆるごとき
このかなしみは
拭ひあへずも

とある日に
酒をのみたくてならぬごとく
今日われ切に金を欲りせり

水晶の玉をよろこびもてあそぶ
わがこの心 ...

一握の砂

どんよりと
くもれる空をみてゐしに
人を殺したくなりにけるかな

人並みの才に過ぎざる
わが友の
深き不平もあはれなるかな

誰が見てもとりどころなき男来て
威張りて帰りぬ ...