一握の砂

興来れば
友なみだ垂れ手を揮りて
酔漢のごとくなりて語りき

人ごみの中をわけ来る
わが友の
むかしながらの太き杖かな

見よげなる年賀の文を書く人と
おもひ過ぎにき ...

一握の砂

茨島の松の並木の街道を
われと行きし少女
才をたのみき

眼を病みて黒き眼鏡をかけし頃
その頃よ
一人泣くをおぼえし

わがこころ
けふもひそかに泣かむとす
友みな己 ...

一握の砂

おどけたる手つきをかしと
我のみはいつも笑ひき
博学の師を

自が才に見をあやまちし人のこと
かたりきかせし
師もありしかな

そのかみの学校一のなまけもの
今は真面目に ...

一握の砂

愁ひある少年の眼に羨みき
小鳥の飛ぶを
飛びてうたふを

解剖せし
蚯蚓のいのちもかなしかり
かの校庭の木柵の下

かぎりなき知識の慾に燃ゆる眼を
姉は傷みき
人恋ふ ...

一握の砂

神有と言ひ張る友を
説きふせし
かの路傍の栗の樹の下

西風に
内丸大路の桜の葉
かさこそ散るを踏みてあそびき

そのかみの愛読の書よ
大方は
今は流行らずなりにける ...

一握の砂

今は亡き姉の恋人のおとうとと
なかよくせしを
かなしと思ふ

夏休み果ててそのまま
かへり来ぬ
若き英語の教師もありき

ストライキ思ひ出でても
今は早や吾が血躍らず ...

一握の砂

城址の
石に腰掛け
禁制の木の実をひとり味ひしこと

その後に我を捨てし友も
あの頃は共に書読み
ともに遊びき

学校の図書庫の裏の秋の草
黄なる花咲きし
今もな知ら ...

一握の砂

晴れし空仰げばいつも
口笛を吹きたくなりて
吹きてあそびき

夜寝ても口笛吹きぬ
口笛は
十五の我の歌にしありけり

よく叱る師ありき
髯の似たるより山羊と名づけて ...

一握の砂

師も友も知らで責めにき
謎に似る
わが学業のおこたりの因

教室の窓より遁げて
ただ一人
かの城址に寝に行きしかな

不来方のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五 ...

一握の砂

己が名をほのかに呼びて
涙せし
十四の春にかえる術なし

青空に消えゆく煙
さびしくも消えゆく煙
われにし似るか

かの旅の汽車の車掌が
ゆくりなくも
我が中学の友な ...